消費額だけじゃ測れない観光の価値──共感経済を数値化する視点

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はじめに

観光施策の成果を語るとき、これまでは「来訪者数」や「消費額」といった分かりやすい指標が中心でした。しかし、それだけで地域の価値を正確に測れるでしょうか。実際には、観光客が残す口コミやSNSでの発信、さらには“推し活”のように地域や文化を応援する行動が、次の来訪者を生み、地域経済に少なからぬ影響を与えています。

こうした「共感」や「応援」をベースに価値が生まれる動きは、近年「共感経済」と呼ばれ、音楽やエンタメ分野で大きな注目を集めてきました。そして今、その考え方は観光にも当てはまるようになっています。

本記事では、この「共感経済」を観光にあてはめて考え、特に口コミ推し活という2つの行動に焦点を当てます。そして、それらをどのように数値化し、観光施策や地域戦略に活かすことができるのかを見ていきます。

第1章:共感経済とは何か

共感経済」という言葉は近年、音楽やエンタメ業界を中心に注目されてきました。従来の経済活動が「価格」や「機能」を基盤にしていたのに対し、共感経済は「共感」や「感情的つながり」そのものが価値を生むという考え方に立っています。

エンタメ分野での例

アイドルやアーティストを応援する「推し活」は典型的な共感経済の形です。ファンは単にチケットやグッズを購入するだけでなく、SNSでの拡散や自主イベントの開催を通じて「推し」の価値を広げていきます。その背景には「好きだから応援したい」「共感しているから広めたい」という感情が存在しています。

観光分野への応用

観光においても、旅行者は単なる「消費者」ではありません。地域の文化や歴史、人々の思いに共感した人は、リピーターになり、SNSで情報を発信し、時にはふるさと納税や特産品購入を通じて経済的にも地域を支えます。つまり、観光における“推し活”=地域や体験への共感を軸とした行動 であり、これを正しく理解することが今後の施策に不可欠です。

第2章:観光における口コミの力

観光において、口コミは最も強力なマーケティング資源のひとつです。旅行者の中には旅先を決める際、公式パンフレットや広告よりも、友人やSNSでの投稿、口コミサイトの評価を信頼する層も一定数います。

口コミが持つ影響力

  • 信頼性の高さ:実際の体験者の声であるため、広告よりも説得力がある
  • 拡散力の大きさ:SNS上でシェアされれば、数百人から数千人に届く可能性がある
  • 購買行動への直結:宿泊予約サイトの利用者による評価や体験談が料金や立地条件と並んで施設を比較検討する際の要素のひとつとして活用されている

数値化の方法

口コミの影響は「感覚的」に語られがちですが、データ化・数値化することも可能です。

  • SNS投稿件数やエンゲージメント数:ハッシュタグ投稿数、いいね、シェア、コメント数
  • 口コミサイト評価点数:平均スコアやレビュー件数を定点観測
  • 広告換算価値(AVE):SNS投稿や記事掲載を広告費に換算して金額で表す

観光施策での活用

自治体やDMOが口コミデータを定期的に収集・分析すれば、どの体験が話題になりやすいのか、どの層に刺さっているのかを把握できます。これにより、広報の強化ポイントや改善すべき体験の洗い出しが可能になります。

第3章:観光における“推し活”の広がり

「推し活」とは、アイドルやアーティストなどを応援するファン活動を指す言葉ですが、その概念は観光分野にも広がりを見せています。旅行者が「自分のお気に入りの地域」や「特定の文化資源・イベント」を“推し”として応援する動きは、近年ますます注目されています。

1. 観光での“推し活”の具体例

  • 祭りや伝統行事:毎年同じ祭りに参加し、SNSで発信する「推し祭り」ファン
  • 地域のキャラクターや鉄道:ローカル鉄道やご当地キャラクターを支援するファンコミュニティ
  • 特産品や飲食:特定の地酒や郷土料理を“推し”とし、繰り返し購入・発信する活動
  • 聖地巡礼:好きなアニメなどのコンテンツにゆかりのある土地を訪れて楽しむ

これらはいずれも「好きだから応援したい」という思いに基づいており、経済的な消費行動だけでなく、口コミや継続的な関与につながっています。

2. 数値化の方法

観光における“推し活”も、工夫すればデータで捉えることが可能です。

  • ファンコミュニティの参加人数や継続率
  • イベントや祭りのリピート参加回数
  • グッズ・関連商品の売上額
  • クラウドファンディングやふるさと納税の寄付額

指標はこれらに限られませんが、データを組み合わせれば、「推し活」による地域への経済的・社会的な貢献を可視化できます。

3. 意義

“推し活”は、観光客を単なる来訪者から「地域の応援者」へと変える力を持っています。推してくれる人が増えることで、地域のブランド価値は長期的に高まり、観光の持続可能性につながるのです。

第4章:共感経済をどう観光施策に活かすか

口コミや“推し活”といった行動は、一見すると「数値化しにくい」「感覚的なもの」と捉えられがちです。しかし、これらを共感経済の一部として捉え、データに基づいて施策に組み込むことで、観光の成果をより正確に評価し、次の戦略につなげることが可能になります。

1. CEV(Customer Engagement Value)との親和性

共感経済を観光に応用する際に参考となるのが CEV(顧客エンゲージメント価値) の考え方です。CEVは「直接的な消費」だけでなく、「口コミによる紹介価値(CRV)」「コミュニティ参加による価値(CIV)」「知識共有による価値(CKV)」などを含めて顧客の価値を評価します。
観光分野では、SNS発信やコミュニティ活動をCEVの一部として数値化することで、従来の「消費額」に収まらないファンの貢献を見える化できます。

2. 政策・施策への活用

  • 施策の効果測定:来訪者数や売上に加えて、口コミ件数やコミュニティ参加人数をKPIとして設定
  • EBPMへの対応:ファンによる行動を数値で示すことで、施策の成果を政策評価に反映できる
  • マーケティング改善:どの体験や観光資源が口コミや推し活に貢献しているかを把握し、重点的に磨き上げる

3. 実務での工夫

  • SNSデータや口コミサイトからのデータ収集を定期的に行う
  • ファンコミュニティを公式にサポートし、活動データを蓄積する
  • 数値化したデータをダッシュボードで可視化し、観光事業者・行政・住民で共有する

共感経済は「感覚的な価値」を「数値化できる資産」へと変換する視点を提供します。これを施策に活かすことで、観光の成果はより持続的かつ説得力のあるものへと進化していくのです。

まとめ

観光を「来訪者数」や「消費額」だけで評価する時代は終わりつつあります。口コミや“推し活”といった行動が持つ力は、地域のブランドを広げ、新たな来訪者を呼び込み、継続的な関係を生み出す大きな要素です。これはまさに、共感を基盤に価値が生まれる“共感経済”の観光版だといえるでしょう。

口コミの件数や評価、SNSでの拡散、ファンコミュニティの参加人数や活動内容──これらは一見定性的に見えますが、工夫次第で数値化することができます。そして数値として捉えることで、観光施策の成果をより多面的に評価し、EBPM(証拠に基づく政策形成)にもつなげることが可能になります。

DeepGreenは、「データとAIで地域の未来をデザインする」という想いのもと、観光の新しい価値指標として“共感の力”を数値化し、地域の未来づくりに挑戦していきます。

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