はじめに|「利益」だけでは測れない企業の価値
地方創生や観光振興、地域事業の立ち上げにおいて、
「この取り組みは儲かるのか?」という問いは避けて通れません。
しかし、現代の社会課題はそれだけでは測れないものが増えています。
- 地域に雇用を生んだ
- 空き家を活用して町に活気が戻った
- 伝統文化を守る仕組みができた
こうした経済以外の“価値”や“影響”を、どう評価するのか?
その問いに対する答えの一つが、近年注目を集めている「インパクト加重会計」です。
インパクト加重会計とは?|企業の“外部への影響”を可視化する会計
■ 定義と背景
インパクト加重会計(Impact-Weighted Accounting)とは、
企業が社会や環境に与えているインパクト(影響)を金額に換算して財務情報に統合することを目的とした会計手法です。
この考え方は、米ハーバード・ビジネス・スクールの研究チーム(ジョージ・セラフェイム教授ら)によって提唱され、企業の非財務的活動の影響を定量的に、そして比較可能にすることを目指しています。
参考:金融庁
何が「加重」されるのか?
インパクト加重会計が評価する主なインパクトは以下の3つです:
項目 | 例 |
---|---|
環境インパクト | CO₂排出量、水資源の使用、廃棄物の排出など |
社会インパクト | 雇用創出、労働条件、地域社会への貢献など |
製品インパクト | 商品・サービスが人々に与える価値や影響 |
このうち、地域創生に直結しやすいのが「社会インパクト」です。
地域創生と「社会インパクト会計」
たとえば以下のような地域事業を想像してみてください:
例1:限界集落でのワーケーション施設運営
- 施設運営によって5人の雇用を創出
- 利用者が地元商店街で月100万円以上を消費
- 元々空き家だった物件を改修・再利用
→ 通常の損益計算書には「売上」「人件費」しか載りません。
でも、地域にとってはその何倍もの価値が生まれているはずです。
これを専門知識を用いて貨幣価値に変換すると、
外部の方々へもいかに重要性がある活動をしているのか、が伝わりやすくなります。
例2:インバウンド向け観光拠点の整備
- 観光客が増え、駅周辺のシャッター街が再生
- 多言語対応やバリアフリー対応を推進
- 地元住民の生活利便性も向上
→ 一時的な収益だけでなく、地域への波及効果を金額で見える化できれば、
自治体や金融機関との連携も進みやすくなります。
どう“金額換算”するのか?
社会インパクトの金額換算例:
インパクト | 金額換算例 |
---|---|
雇用 | 年収ベース(例:350万円) |
空き家再活用1件 | 社会的コスト削減(治安・資産劣化防止)で年10万円相当 |
商店街の経済波及効果 | 経済乗数 × 売上高(例:1.6倍×100万円) |
学校統廃合回避(家族移住) | 公共支出抑制+人口維持の便益 |
もちろん、厳密な試算にはローカルデータや統計が必要です。
ですが、「何となくいいことしている」から脱して、意思決定に耐える数字を提示することができます。
インパクト会計は誰のため?
- 地域の事業者にとっては:「短期利益ではなく、地域にもたらす価値」を主張する武器に
- 自治体にとっては:「効果が見える政策評価」として、投資判断の材料に
- 金融機関・投資家にとっては:「社会的リターンの可視化」により、ESG評価や融資方針に反映可能
地域にこそ「会計の言葉で語る力」が必要だ
地域の取り組みは、感情的な共感に支えられながらも、評価や継続には“数字の言語”が不可欠です。
インパクト加重会計は、その非財務価値を翻訳する共通言語となり得ます。
まとめ|“見えない価値”を見える形に
「社会に良いことをしている」ではなく、
「社会にどれだけの価値を生み出しているか」へ。
これが、インパクト加重会計の本質です。
地域創生の現場でも、「費用対効果」では測れない取り組みがたくさんあります。
その価値を定量的に説明し、応援者を得るための会計として、
インパクト加重会計はこれからのローカル経済にとって非常に強力な武器になるかもしれません。