はじめに:地域資源は「ある」のに、なぜ伝わらないのか?
「うちの地域には何もない」
「いや、実は文化も歴史も自然も豊富なんだけど…」
そんな会話を、地域づくりや観光施策の現場で耳にしたことはないでしょうか。
実際、多くの地域には独自の伝統、語り継がれる歴史、手つかずの自然など、“資源そのもの”は確かに存在しています。
しかし、それらが観光客や移住希望者、あるいは地域外の人々に「魅力」として届いているかというと、答えはNOであることがほとんどです。
その背景には、以下のような課題があります:
- 地域資源が点在していて活用しきれていない
- 歴史や文化が“展示”にとどまり、“体験”になっていない
- 情報発信が弱く、WebやSNSで見つけられない
- インバウンドや若年層に対して伝え方がアップデートされていない
つまり、地域資源は「ある」のに、見つけられず、届かず、活かされていないのです。
データとAIで「埋もれた価値」を引き出すには?
本記事では、こうした課題を解決する手段として、
- 地域資源の体験化(ガイドツアー・アクティビティ等)
- データ分析・AI活用によるニーズ分析と体験設計
- SNS・Webを活用した戦略的デジタルプロモーション
という3つの柱から、「あるけれど活かされていない地域資源」を“選ばれる体験”に変える方法を、具体的な視点でご紹介します。
地域の魅力を“伝わる価値”に変えるヒントが、ここにあります。
第1章:地域資源が埋もれてしまう3つの理由
多くの地域には、他にはない魅力的な資源があります。
歴史のある町並み、地元の信仰に根ざした文化、豊かな自然や暮らしの知恵。
にもかかわらず、それらが観光や地域活性の柱になっていない現場は少なくありません。
なぜ、せっかくの地域資源が埋もれてしまうのでしょうか?
ここでは、その代表的な3つの理由を整理します。
① 「掘り起こし」が勘と経験に依存している
地域資源を見つける段階で、地元の有志の知識や感覚に頼ってしまうケースが多く見られます。
もちろん、地元の方の経験や記憶は非常に重要ですが、それだけでは「何が価値なのか」「誰に刺さるのか」が客観的にわかりません。
結果として:
- 外から見たら魅力的なのに活用されていない
- 実は求められていないコンテンツに予算が割かれる
- ターゲットと訴求内容がズレてしまう
といった“ミスマッチ”が生まれてしまいます。
② 「見る」だけで終わる、“体験化されていない”観光資源
神社仏閣、歴史的建造物、棚田、山林など…
確かに存在するものの、それをどう体験できるかが設計されていない例は多くあります。
- 看板だけで終わる説明
- 写真撮影だけの場所
- 地元の人との交流がない施設見学
こうした資源は、訪問者にとっては「立ち寄っただけ」の印象しか残らず、滞在時間も経済効果も伸びにくいのです。
③ 情報発信が“つながっていない”
せっかく良いコンテンツがあっても、次のような情報発信の課題があります:
- Webサイトがスマホ未対応、電話予約のみ、英語非対応
- SNSがイベント時しか動かない
- 魅力的な画像や動画が発信されていない
- ハッシュタグや検索キーワードを意識していない
この結果、存在していても「見つけられない」「興味が湧かない」「比較対象にならない」という状態に陥ってしまいます。
「体験×デジタル」で埋もれた資源に価値を灯す
これらの課題を乗り越えるには、地域資源を体験化=人の記憶に残る形に再設計し、
それをデジタル上で“見つけてもらえる形”にすることが不可欠です。
次章では、その第一歩として「地域体験型コンテンツ」の可能性について掘り下げていきます。
第2章:体験型コンテンツが“地域の語り手”を生み出す
地域資源を活かすために必要なのは、単に「知ってもらう」ことではなく、訪れた人が“自分ごと化”できるような体験を提供することです。
その鍵となるのが、ガイドツアーやアクティビティなど、地域資源を「体験型コンテンツ」として再設計する取り組みです。
「見る」から「関わる」へ。体験が語りたくなる記憶をつくる
体験型コンテンツは、単に観光スポットを回って案内文を読むだけの「情報提供型観光」とは異なり、訪問者自身が参加し、行動し、感じるプロセスを伴います。
たとえば:
- 伝統工芸の職人に弟子入りしてものづくり体験をする
- 地元のガイドが語る“暮らしの背景”を聴きながら一緒に町を歩く
- 棚田で農作業をしながら地域の自然や食文化を学ぶ
こうした体験を通じて、訪問者は地域に感情的・身体的に関与します。
その結果、「また来たい」「誰かに話したい」という思いが生まれ、自らが“語り手”になるのです。
ストーリーテリングが“価値”を引き出す
どんな資源も、それ自体に価値があるのではなく、その背景やストーリーをどう伝えるかによって印象が大きく変わります。
体験コンテンツの設計では、以下のような「語りの設計」が重要になります:
- 地元の人がどんな思いで守っている場所か?
- その文化や習慣がどうやって今に残っているのか?
- 訪れた人が地域の一部になれる瞬間はどこにあるか?
これらをストーリーテリングとして組み込むことで、地域資源は単なる「観光素材」から、「心に残る体験」へと昇華します。
体験が変える、滞在時間・満足度・再訪率
体験型コンテンツの導入は、感動を与えるだけでなく、実際の観光指標にも好影響を与えます。
- 滞在時間の延長(1~2時間の立ち寄り → 半日~泊まりへ)
- 満足度の向上(“体験が一番の思い出”という声多数)
- 再訪・口コミの増加(体験を語りたくなる=自発的プロモーション)
このように、体験は地域の魅力を「定着」させ、「循環」させる起点になります。
次章では、こうした体験型コンテンツをデータ分析とAIの力でどう最適化していくか、具体的な手法をご紹介します。
第3章:データから見える「刺さる体験」のつくり方
体験型コンテンツが重要なのは分かっていても、「どんな体験が求められているのか?」「誰に向けて、どの資源を活かすべきか?」という問いに対して、多くの地域は感覚や過去の成功体験に頼ったまま設計を行っています。
しかし今や、観光客の行動やニーズはデータで“見える化”することが可能です。
データ分析やAIを活用することで、「刺さる体験」をより高い精度で設計することができるのです。
人流・属性データで「来ている人」の傾向を把握する
まず重要なのは、地域を訪れている人たちの実態を知ることです。
GPSや交通データ、滞在履歴などをもとに、次のような情報が得られます:
- どこから来ているのか(都道府県・国・居住地)
- 滞在時間はどれくらいか(立ち寄り型か、宿泊型か)
- どの場所で長く滞在しているか、素通りしているか
- 何時ごろ・どの曜日に人が集中しているか
これにより、ターゲットとすべき層や、体験を組み込むべき時間帯・動線が明確になります。
SNS・口コミ・自由記述から「刺さった体験と言葉」を抽出
観光客や参加者の声は、体験価値を測る重要な手がかりです。
Google Mapのレビュー、SNSの投稿、アンケートの自由記述などからは、次のような分析が可能です:
- どんなキーワードが「満足」や「感動」などの感情とセットで語られているか
- ネガティブなコメントに共通する“不満ポイント”は何か
- リピーターの言葉に含まれる「また来たい理由」はどこにあるか
大規模言語モデル(LLM)や機械学習を活用すれば、こうした膨大な自由記述も自動で要約・分類でき、感覚に頼らない体験設計のヒントになります。
地域資源の“体験化可能性”を事前に見極める
AIモデルを活用すると、「この資源は体験化しやすいかどうか」を予測することもできます。
例えば:
- 同様の資源が他地域でどう活用されているか
- 類似施設のレビュー傾向
- 観光客の属性との相性(年齢層・国籍・目的)
これにより、「とりあえずやってみる」ではなく、事前に練った戦略を元に効果の見込める体験に集中投資することが可能になります。
次章では、こうして作ったコンテンツをどう「届けるか」、
WebやSNSを活用した戦略的なデジタルプロモーションの考え方についてご紹介します。
第4章:デジタルプロモーションで「見つけてもらう」設計を
地域資源を体験型コンテンツとして整えたら、次に重要なのは「どうやって届けるか」です。
どれだけ良い体験が用意されていても、それが“見つけられない”状態では、存在しないのと同じです。
現代の観光行動の多くは、スマートフォン上の検索やSNSから始まっています。
つまり、地域が「選ばれる」かどうかは、オンラインでの“発見性”に左右されるのです。
検索行動とSNSから“興味の流れ”を読み解く
検索エンジンやSNSでのユーザー行動を分析すると、どのような切り口が注目されているのかが見えてきます。
- Google検索キーワード分析 → 例:「◯◯町 カフェ」「○○ 観光 穴場」「歴史ある町並み」
- Instagram・TikTok → ハッシュタグや保存数の多い投稿傾向
- YouTubeやブログ → 滞在記やレビューに出てくる“体験価値の言語化”
これらを活用することで、「どんな言葉で検索されているか」「どんな写真や動画が刺さっているか」が分かり、発信の方向性を戦略的に決めることができます。
SNS投稿やWebサイトは「体験の予告編」に
発信の目的は、イベントの告知や施設の紹介も重要ですが、最も届けたいのは「そこで得られる体験の物語」です。
たとえば:
- 「地元の人が語る昔話を聴きながら夜道を歩くツアー」→ ランタンの光と語りの動画
- 「棚田での田植え体験」→ 泥に足を取られて笑う家族の写真
- 「古民家でのワークショップ」→ 無言で夢中になっている参加者の横顔
こうしたコンテンツは、未来の訪問者に“自分も体験したい”と思わせる感情の引き金になります。
インバウンド対応:文化背景を翻訳する
外国人観光客(インバウンド)に向けては、単なる直訳では伝わりません。
AI翻訳ツールを活用しつつも、「文化の意味」や「体験の文脈」まで訳す姿勢が必要です。
たとえば:
- 神社の“参拝”は「観光地訪問」ではなく「受け継がれてきた歴史を体験」
- 農作業体験は「アクティビティ」ではなく「自然の中で季節と文化を知る機会」
- 郷土料理は「食べる」ではなく「地域の気候や環境を知る・一緒に作る」プロセス
こうした翻訳は、人力とAIのハイブリッドで行うことが効果的です。
継続的な発信で「ファン」を育てる
SNSやWebは単なる集客のツールではありません。
一度訪れた人との接点を継続する場でもあり、リピーターや関係人口を育てる“関係性のインフラ”です。
- 来訪後の写真を紹介する、四季折々の魅力を伝える
- イベントの裏側や地元の声を発信する
- メールマガジンやLINEなどで“また来たくなる”情報を届ける
このような循環を生むことで、「1回の観光」を「長く続く関係」に変えることができます。
次章では、こうした体験開発や情報発信をデータとロジックで支えるDeepGreenの取り組みをご紹介します。
第5章:DeepGreenが提供する「地域資源の見える化と活性化支援」
地域には眠っている資源が数多く存在しますが、それを価値ある体験に転換し、適切に発信し、継続的な関係へつなげていくには、個人の経験や感覚だけでは限界があります。
私たちDeepGreenは、地域課題の現場に寄り添いながら、データ分析・AI・ロジック設計を活用し、地域資源の活性化と持続的な運用を支援しています。
地域資源をマッピングし、見える化する
まずは、地域にどんな資源が存在するのかを把握し、データで整理することから始まります。
- 地元住民・関係者へのヒアリング+AIによるキーワード抽出
- SNSや検索ログを活用した“注目されている資源”の特定
- 地理情報(GIS)と組み合わせた資源の可視化
- 類似地域との比較
これにより、「どの資源をどう活かすか」を戦略的に判断することが可能になります。
「体験」に落とし込む設計支援
単に観光素材を集めるだけではなく、それを「体験型コンテンツ」として組み立てていく設計も支援します。
- 誰に向けて、どんな感情を動かす体験にするか
- ガイドや住民との接点設計、ストーリー構成
- 滞在時間・動線を改善して満足度を高めるデジタル技術の提案
定性と定量の両面から、記憶に残る体験を設計する伴走支援を行っています。
デジタルプロモーションの戦略設計と運用支援
私たちは、体験を「届ける」、そして「届けたその後」のフェーズにおいても、データとロジックを活用しています。
- コンテンツのパフォーマンスの可視化
- SNSやGoogle検索データの解析
- STP分析とPDCA運用
その場限りではなく、地域内で自走できる運用体制の設計までを含めてサポートします。
関係性の「見える化」と再訪・関与の循環設計
一度訪れた人を“ファン”として関係人口化するために、以下のような仕組みも提供しています。
- 来訪履歴や行動データの蓄積と可視化
- アンケート・自由記述のAI解析による定性評価
- 再訪・紹介・情報発信行動を促すコミュニケーション設計
データに基づいて「関係が深まる仕掛け」を設計することで、地域と外の人々の持続的な関係構築を支援しています。
おわりに:魅力があるだけでは届かない時代に、“伝わる設計”を
「魅力がないわけじゃない。でも、うまく伝えられていない気がする」
そんな悩みを抱える地域は、日本中に存在しています。
歴史や文化、自然、食、風習──
これらの地域資源は、本来どこにも代えがたい価値を持っています。
しかし、それが活用されず、埋もれたままである限り、訪れる人にとっては「知らない場所」、「通り過ぎる場所」になってしまいます。
見つけられること・伝わること・語られること
今の時代、地域が選ばれるためには、
- 検索で見つかること(情報設計)
- 魅力が“体験”として伝わること(コンテンツ設計)
- 来た人が語りたくなること(ストーリー設計)
の3つが不可欠です。
これらを実現するには、体験設計の視点と、テクノロジーによる支援の組み合わせが重要です。
「地域の記憶」を、データと仕組みで未来につなぐ
DeepGreenは、データ分析とAI活用の強みを活かしながら、
地域資源を「見える化」し、「語られる体験」へと再構築し、それを「継続的に育てる仕組み」に変えていく取り組みを行っています。
観光・関係人口・まちづくりなど、どの分野であっても、課題は「伝わらない」「つながらない」「続かない」の3つに集約されます。
私たちはそのどれにも、“仕組み”と“ロジック”で応えていきたいと考えています。
地域には、まだまだ伝えられていない価値がある。
その価値を、体験へ、そして関係へ。
伝わる仕組みを、共につくりましょう。