観光で効くレコメンド:周遊促進と地域振興を同時に進める実践ガイド

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はじめに

「この商品を見ている人はこちらにも注目しています」──ECサイトや動画配信サービスでおなじみのレコメンド機能は、私たちの日常にすっかり浸透しています。実はこの仕組み、観光分野でも大きな可能性を秘めています。

観光協会のホームページにレコメンドを組み込めば、ある観光スポットを調べている人に関連する周辺スポットや体験を自然に提案できます。また、伝統工芸や特産品のECサイトに導入すれば、購入者の興味に沿った商品を提示することで消費額の増加や再訪意向の向上につながります。結果として、観光地の周遊促進と地域産業の活性化という、観光と地域創生の両立を支える仕組みとなり得るのです。

しかし、観光事業者や自治体にとって「レコメンド」という言葉はまだ抽象的に聞こえるかもしれません。「実際に導入できるのか」「どんなデータが必要なのか」という疑問を持つ方も多いでしょう。

そこで本記事では、観光におけるレコメンドの活用方法を具体的に紹介するとともに、最小限のデータで実装できるシンプルな仕組みを示します。さらに、ダミーデータと簡単なコード例を用いて、観光分野でも手軽に試せることをお伝えします。

第1章:レコメンドとは何か

1. レコメンデーションの基本

レコメンデーション(レコメンド)とは、ユーザーの興味や行動履歴に基づき、関連性の高い情報や商品を自動的に提示する仕組みです。ECサイトの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」、動画配信サービスの「あなたへのおすすめ」が代表的な例です。利用者にとっては「自分に合った情報が自然に見つかる」メリットがあり、提供者にとっては購買や利用機会を増やす手段となります。

2. 主なアプローチ

レコメンドには大きく分けて3つの手法があります。

  • 協調フィルタリング:似た行動をしたユーザー同士を比較し、他の人が好んだ情報を推薦する方法。
  • コンテンツベースフィルタリング:ユーザーが過去に関心を示した対象の特徴(ジャンル、タグなど)をもとに、似た対象を推薦する方法。
  • ハイブリッド型:上記2つを組み合わせ、精度を高める方法。

観光では、観光スポットの属性情報(例:自然、文化、食)、位置情報、利用者の過去の閲覧、ホームページ間の遷移データや予約データなどを組み合わせることで、旅行者に「次に行きたい場所」「好きそうな場所」を提示することができます。

3. 他分野での成果

  • EC分野:Amazonなどで広く導入され、購買額を大幅に伸ばす仕組みとして定着。
  • エンタメ分野:NetflixやSpotifyが利用者の趣味嗜好を学習し、長期的な利用を促進。
  • ニュース・SNS:個人に合わせた情報提供により、滞在時間や再訪率を増加。

これらの事例が示すように、レコメンドは単なる「便利機能」ではなく、消費行動・体験設計・顧客ロイヤルティの強化を支える仕組みなのです。

第2章:観光でのレコメンド活用シナリオ

レコメンドは「商品を売る仕組み」というイメージが強いかもしれませんが、観光分野に応用すると 旅行者の行動を自然に広げ、地域全体の消費を底上げする仕組みになります。ここでは、具体的な活用シナリオを見ていきます。

1. 観光協会ホームページでのレコメンド

観光協会の公式サイトを訪れる旅行者は、多くの場合「あるスポット」や「イベント情報」を求めています。このとき、関連するスポットや近隣の体験をレコメンドとして表示すれば、旅行者は「せっかくだからここも行ってみよう」と自然に周遊計画を広げます。
例:歴史的建造物を調べているユーザーに → 近隣の郷土料理店や工芸体験を提示。

2. 伝統工芸や特産品ECでのレコメンド

観光後の購買体験を支えるのが、工芸品や特産品のオンライン販売です。ここにレコメンドを組み込むと、閲覧中の商品と関連する工芸品やセット商品を提案でき、購買単価の向上や再購入の促進につながります。また、観光協会の観光スポットレコメンデーションと組み合わせると訪問⇔購買の双方向の導線も出来上がります。
例:地酒を閲覧中のユーザーに → おつまみとして合う地元の漬物を提案。

3. 周遊促進の仕組みとしてのレコメンド

レコメンドを活用すれば、単なる「点」としての観光スポット紹介から、複数のスポットを結ぶ「ルート提案」に発展させることができます。これにより旅行者の滞在時間は伸び、地域内の消費が増加します。
例:「温泉に興味がある」ユーザーに → 近隣の足湯、温泉街の食べ歩きマップ、地元の宿泊施設をセットで提示。

4. 長期的な関係構築への貢献

一度訪れた旅行者に対しても、後日「あなたが訪れた地域で開催される新しいイベント」や「季節限定の特産品」などをレコメンドすれば、再訪やオンライン購買を後押しできます。これにより、観光地と旅行者とのつながりが「一度きりの来訪」から「長期的な関係」へと進化します。

第3章:地域創生への効果

観光にレコメンドを組み込むことは、単に旅行者の利便性を高めるだけではありません。地域全体の経済や観光の持続性にも直結する「地域創生の仕組み」としての意義を持ちます。

1. 周遊促進による滞在時間の増加

旅行者は目的のスポットだけを訪れて帰ってしまうことも多いですが、レコメンドによって「近くにある関連スポット」や「一緒に楽しめる体験」を提示すれば、自然と行動範囲が広がります。結果として、滞在時間が延び、地域内での消費が増えることにつながります。

2. 消費額の向上

ECサイトや現地購買でのレコメンドは、一人あたりの消費額を押し上げるポテンシャルがあります。例えば、特産品購入時に「関連商品」や「こちらと合います」を提案することで、購買単価を増加させるクロスセル・アップセル効果が期待できます。

3. 再訪意向の強化

旅行後に「あなたにおすすめの新しい体験」や「季節限定の特産品」を案内するレコメンドを行えば、旅行者は「また行ってみたい」「次は違う商品も試したい」と感じやすくなります。これにより、リピーターや地域ファンの育成へとつながります。

4. 地域経済への波及効果

レコメンドを通じて旅行者の行動や消費が広がれば、飲食店、工芸品店、宿泊施設、農業・漁業などの一次産業まで裾野が広がります。つまり、観光地の収益増加だけでなく、地域経済全体の持続可能な成長に寄与するのです。

第4章:実装のための最小限データ

「レコメンド」と聞くと、大規模なデータや高度なAIが必要と思われがちですが、観光分野で小さく始めるなら、必ずしも膨大なデータは必要ありません。最低限、以下のようなデータがあればシンプルなレコメンドの仕組みを構築することが可能です。

1. ユーザー行動ログ

  • ページ閲覧履歴(どの観光スポットページを見たか)
  • ユーザーの遷移履歴(関連情報のリンクにアクセスしたか、など)
    →これにより「似た行動をしたユーザーはどこに興味を持ったか」を推定できます。

2. コンテンツの属性データ

  • 観光スポット:ジャンル(自然、文化、食)、所在地、関連タグ
  • 商品・特産品:カテゴリー(工芸品、食品)、価格帯、利用シーン
    →これにより「類似した特徴を持つスポットや商品」をレコメンドできます。

3. 購入・予約履歴(あればなお良い)

  • 実際の購入商品や宿泊予約情報
  • ユーザーの会員情報
  • イベント参加履歴
    →これらは一人の人間の「行動が伴った関心」を示すため、より精度の高いレコメンドに役立ちます。

小規模でも始められるポイント

  • データは「少なくても動く」のがレコメンドの特徴です。たとえばユーザー数や商品数が少なくても、閲覧履歴+カテゴリー情報 があれば簡単な推薦は実装可能です。ただし、多くなると精度が向上します。
  • まずは「最低限のデータ」で試し、徐々に精度を高めていくアプローチが現実的です。

第5章:サンプルデータとコード例

「理論は分かったけれど、実際にどのように動くのかイメージできない」という方のために、ここではダミーデータを使ったシンプルなレコメンド例をご紹介します。あくまで最小限の仕組みですが、観光協会のHPや特産品ECでも応用できる第一歩として活用できます。

1. ダミーデータ例(CSV)

user_idspot_idviews
U001S0013
U001S0021
U002S0012
U002S0034
U003S0022
U003S0045
  • user_id: ユーザー識別子(匿名化可能)
  • spot_id: 観光スポットや商品のID
  • views: 閲覧回数や興味度合い

構造をサンプルとして載せます。実務では「閲覧履歴」「購入履歴」などを組み合わせればOKです。

簡単なPythonコード例

import pandas as pd
from sklearn.metrics.pairwise import cosine_similarity

# ダミーデータを作成
data = {
    "user_id": ["U001","U001","U001","U001","U002","U002","U002","U002","U003","U003","U003","U003"],
    "spot_id": ["S001","S002","S003","S004","S001","S003","S004","S005","S002","S003","S004","S005"],
    "views": [3,1,2,4,2,3,4,3,3,2,1,4]
}
df = pd.DataFrame(data)

# ユーザー×スポット行列を作成
pivot = df.pivot_table(index="user_id", columns="spot_id", values="views", fill_value=0)

# コサイン類似度を計算(ユーザー同士の類似度)
similarity = cosine_similarity(pivot)

# DataFrame化して見やすく
sim_df = pd.DataFrame(similarity, index=pivot.index, columns=pivot.index)

print("ユーザー間の類似度行列:")
print(sim_df)

# 例:U001に似たユーザーが見ているスポットを推薦
target_user = "U001"
similar_users = sim_df[target_user].sort_values(ascending=False)
print("\nU001に似たユーザーが関心を持つスポット:")
for u in similar_users.index[1:]:  # 自分自身を除外
    recs = df[df["user_id"] == u]["spot_id"].tolist()
    print(f"- {u} が見ているスポット: {recs}")

このコードを実行すると以下の結果が出ます。

ユーザー間の類似度行列:
user_id U001 U002 U003
user_id
U001 1.000000 0.829288 0.366667
U002 0.829288 1.000000 0.651584
U003 0.366667 0.651584 1.000000

U001に似たユーザーが関心を持つスポット:
- U002 が見ているスポット: ['S001', 'S003', 'S004', 'S005']
- U003 が見ているスポット: ['S002', 'S003', 'S004', 'S005']

user_id がU001のユーザーはU003よりもU002と好みが近いことがわかりました。
そのため、協調フィルタリングの結果を活かし、U002が高く評価するなど関心を寄せたスポットをU001に見せた方が関心が高くなることが見込めます。

3. コードのポイント

  • ユーザー×スポットの行列を作り、類似ユーザーを探す(協調フィルタリングの基本)。
  • 類似ユーザーが見たスポットを推薦すれば「あなたも興味があるかも?」が実現。
  • 実際には閲覧ログや購入データ、商品やスポット自身の類似度を組み込むことで精度を高められます。

このように、最低限のデータと数十行のコードだけで「観光レコメンドの基盤」を試すことができます。

第6章:課題と展望

レコメンドは観光分野において大きな可能性を秘めていますが、導入にあたっては現実的な課題も存在します。これらを理解した上で取り組むことが、持続可能で効果的な運用につながります。

1. データ不足の課題

小規模な事業者では、ECや大規模プラットフォームのように豊富なデータを持っていないことが多くあります。特にデータ基盤を導入したばかりの段階では、ユーザー行動データが十分に蓄積されないため、レコメンドの精度に限界が出やすい点が課題です。

2. プライバシーへの配慮

ユーザー行動を活用する仕組みである以上、個人情報や行動履歴の扱いには慎重さが求められます。匿名化や統計処理を前提に、「個人を特定しない形で傾向を掴む」 ことが重要です。

3. 実装と運用コスト

レコメンドのアルゴリズム自体はシンプルに始められますが、実際にサイトやECに組み込む開発コスト、運用を継続する体制は無視できません。小規模事業者の場合は内製化よりも外部パートナーとの連携が現実的です。

4. 今後の展望

これらの課題を踏まえつつも、レコメンドの未来は明るいと考えられます。

  • AIによる高度なパーソナライズ:旅行者ごとに最適化された体験設計。
  • 地域横断での連携:観光協会、宿泊、ECが連動して一貫したレコメンドを提供。
  • 動的レコメンド:天候、イベント、混雑状況などのリアルタイム情報を組み込む仕組み。

レコメンドは単なる「情報提案」にとどまらず、観光行動の設計と地域振興を同時に進める戦略ツールとして進化していくでしょう。

まとめ

レコメンドは、これまでECや動画配信で「購買や利用を増やす仕組み」として発展してきました。しかし観光分野に応用すれば、旅行者にとっての利便性と地域にとっての経済効果を両立する仕組みとなります。

観光協会のHPでは周遊促進を、特産品ECでは消費額向上を、そして旅行後には再訪やファン化を後押しすることが可能です。さらに最小限のデータと簡単な仕組みから始められるため、小規模地域や事業者にとっても現実的な選択肢となります。

もちろんデータ不足やプライバシー保護といった課題はありますが、AIやリアルタイム情報との組み合わせにより、観光におけるレコメンドはより高度に、そして持続的に発展していくでしょう。

DeepGreenは、「データとAIで地域の未来をデザインする」という想いのもと、こうしたレコメンドの仕組みづくりを地域の文脈に合わせて支援していきます。旅行者と地域を自然につなぐデータ活用の橋渡し役として、観光の新しい可能性を共に探っていきたいと考えています。