はじめに
人気観光地が直面している課題のひとつに「街頭ごみ」の問題があります。観光客の急増により、ごみ箱があふれたり、歩道や公園に飲み残しや包装ごみが散乱する光景は珍しくありません。これらは景観の悪化や住民生活への負担を招くだけでなく、観光地としての評価や満足度の低下にもつながります。
昨今の観光需要の増大と人手不足が加速する中、注目されているのが、データやIoTを活用したごみ問題の解決です。人流データやごみ箱センサーを組み合わせれば、どこで・いつ・どれくらいのごみが発生するのかを予測でき、効率的な回収や適切な配置計画につなげることが可能になります。
本記事では、オーバーツーリズムがもたらす街頭ごみの現状と課題を整理し、データ活用による解決策、さらに国内で行われている実証事例を紹介します。観光と環境保全を両立させるために、データがどのように役立つのかを考えていきます。
第1章:オーバーツーリズムと街頭ごみ問題の現状
観光地が賑わいを取り戻すことは地域にとって喜ばしい一方で、観光客の急増は新たな課題も生み出しています。そのひとつが「街頭ごみ」の問題です。
人気のある観光地の周辺では、ごみ箱がすぐに満杯になり、溢れたごみが路上に散乱するケースが多発しています。観光客が増えることで飲食の機会も増え、飲み残しのカップや弁当の包装、土産品の袋など、多種多様なごみが集中的に発生するのです。
こうしたごみ問題は、単に景観を損なうだけではありません。
- 地元住民の生活環境の悪化(悪臭・害虫発生など)
- 清掃や回収コストの増大による行政負担
- 観光客自身の満足度低下(「きれいな町ではなかった」という口コミ拡散)
といった形で、地域経済や観光の持続性に直接的な影響を与えます。
第2章:データでごみ発生を可視化・予測する仕組み
オーバーツーリズムによる街頭ごみ問題は、突発的に発生するのではなく、人の流れや行動に強く依存しています。つまり「いつ・どこで・どのくらい」発生するのかを予測できれば、計画的に対策を打つことが可能になります。その鍵となるのが、データの活用です。
人流データの活用
スマートフォンの位置情報や交通ICカードの利用状況などを分析することで、観光客がどの時間帯にどのルートを移動しているかを把握できます。例えば「午前中は駅から観光名所へ向かう流れが集中」「昼食後に特定のエリアで人が滞留」といった傾向が分かれば、ごみの発生ポイントを予測する基盤となります。
ごみ箱センサーによるリアルタイム把握
IoT技術を用いたごみ箱センサーは、内部の充填率や投入口の利用状況をクラウドに送信できます。これにより「いつどのごみ箱が満杯になるか」をリアルタイムで把握でき、回収の優先順位付けや巡回ルートの最適化が可能になります。
外部要因との組み合わせ
ごみ発生は人流だけでなく、イベントや天候にも左右されます。
- 花火大会やお祭り → 一時的に大量のごみ発生
- 雨天 → 観光客が屋内施設に集中し、特定エリアのごみが急増
- 季節イベント → 食べ歩きや屋外飲食が増えることで飲食ごみが増加
こうしたデータを組み合わせてモデル化すれば、ごみの発生量を事前にシミュレーションし、必要な回収体制を柔軟に整えることができます。
予測モデルによる管理の可能性
最終的には、人流データ × ごみ箱センサー × イベント・天候情報を組み合わせた「ごみ発生予測モデル」を構築することで、現場の負担を減らしつつ効率的な運用が実現します。これは「ごみがあふれてから対応する」従来型の管理から、「あふれる前に予測して対応する」予防型管理への転換を意味します。
第3章:データ活用によるごみ対策と運用モデル
データによってごみ発生の「見える化」と「予測」が可能になれば、対策も場当たり的なものから戦略的なものへと変わります。ここでは、データを活用した具体的なごみ対策の方向性を整理します。
スマート回収
ごみ箱のセンサー情報をもとに、回収が必要な場所をリアルタイムで特定できます。これにより、従来の「決まったルートを一律に巡回する方式」から、「必要な場所だけ効率的に回収する方式」へと転換でき、清掃員の負担軽減や燃料コストの削減につながります。
配置最適化
人流データとごみ発生の傾向を掛け合わせれば、どこにごみ箱を設置すべきか、どのくらいの容量が必要かを科学的に検証できます。例えば「イベント開催時には臨時にごみ箱を追加する」「普段は小型で十分だが週末は大型に切り替える」といった柔軟な運用が可能になります。
動的スケジューリング
イベントや天候データを組み込み、「今週末は人出が増えるため収集回数を増やす」といった予測型の運用が可能です。これにより、あふれた後の緊急対応ではなく、事前に準備する予防型の施策が実現します。
観光客へのマナー誘導
ごみの削減には旅行者の行動変容も欠かせません。アプリや街頭サイネージを通じて「最寄りのごみ箱の位置」や「分別ルール」を表示すれば、観光客が迷わずごみを捨てやすくなります。AIを用いた多言語対応にすれば、インバウンド観光客へのアプローチも効果的です。
予防型施策の導入
データから「ごみがあふれやすい曜日や時間帯」が明らかになれば、そのタイミングに合わせて啓発メッセージを流したり、臨時スタッフを配置したりといった「先回り対応」が可能になります。
データを活用したごみ対策は、単なる効率化にとどまらず、観光客の体験価値を高め、地域全体の観光満足度を維持する仕組みへとつながっていきます。
第4章:国内の具体事例
データやIoTを活用したごみ対策は、すでに国内外で実証が進んでいます。
宮島でのSmaGO実証実験
広島県廿日市市(宮島)では、観光客の急増により、街頭ごみが深刻化していました。これに対応するために導入されたのが、IoT技術を活用したスマートごみ箱「SmaGO」です。
SmaGOは、内部にごみを圧縮する機能を備え、満杯状況をセンサーで検知し、クラウドを通じてリアルタイムに通知できる仕組みを持っています。これにより、ごみ箱の容量増大(圧縮機能)+回収の効率化(通知機能) を両立させ、観光地特有のごみ問題に対応しました。
実証実験では、以下の成果と課題が確認されています。
- ごみの散乱防止と美観維持に効果を発揮
- 回収作業の効率化により人手やコストの削減が可能に
- 一方で、ごみ箱の構造故の手間などが課題として浮上
参考:廿日市市ホームページ
この他にも実証実験が進められており、今後の発展が期待されます。
第5章:課題と今後の展望
データ活用による街頭ごみ対策は有効性が高い一方で、現実に導入する際にはいくつかの課題が存在します。これらを整理しつつ、今後の方向性を展望します。
コストとスケールの課題
ごみ箱センサーやIoT機器の導入には初期投資が必要です。大規模観光地では回収効率化によって十分に投資を回収できる可能性がありますが、小規模地域では費用対効果の検証が不可欠です。また、運用を続けるための維持管理コストも考慮する必要があります。
市民・観光客との協働
SmaGOの事例が示すように、分別ルールの誤投入や案内不足といった人の行動に関わる課題は、技術だけでは解決できません。観光客への啓発、住民との協働、自治体の広報など、人と技術を組み合わせた運用が不可欠です。
今後の展望
- AIによる予測精度向上:人流・イベント・天候データを統合した高精度モデルの実現。
- 地域横断的なプラットフォーム:複数の観光地や自治体がデータを共有し、広域でごみ対策を効率化。
- サステナブル観光の一環としての位置づけ:ごみ削減は「観光の質」を高める施策として認識され、ESGやSDGsの文脈でも重要性が増す。
街頭ごみ問題は、観光地の美観や住民生活を守るだけでなく、観光地のブランド価値や持続可能性を左右する要素です。データを活用した科学的なアプローチは、今後の観光政策・地域経営において欠かせない基盤となっていくでしょう。
まとめ
オーバーツーリズムによる街頭ごみの問題は、景観の悪化や住民生活への負担、そして観光満足度の低下といった多方面に影響を及ぼす深刻な課題です。従来のように「ごみ箱を増やす」「清掃員を増員する」といった場当たり的な対策では限界があり、持続的な解決は難しい状況にあります。
本記事で紹介したように、人流データやIoTごみ箱のセンサー、天候やイベント情報などを組み合わせることで、ごみの発生を事前に把握し、効率的に対応する「予測型の管理」が可能になります。広島県宮島でのSmaGO実証実験が示すように、データに基づいた施策はすでに現場で効果を上げ始めています。
今後は、AIを活用した高精度予測や地域間連携によるプラットフォーム構築など、より広範で持続可能な仕組みづくりが求められます。
DeepGreenは、「データとAIで地域の未来をデザインする」という想いのもと、観光地が直面するごみ問題を含むオーバーツーリズムの課題に対して、地域の実情に合わせた科学的な解決策の設計と実装を支援していきます。



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